高分子とは何なのか 分かりやすい解説
そもそもポリマーとは何なのか?
高校生の頃に化学を履修していたなら,授業でポリマーや高分子という単語を習ったことがあるでしょう。そこで,ポリエチレンやポリスチレンなどの名前や構造を学び,身の回りに広く使用されている素材だということを知ったと思います。下の図のように結合がズラッと並び分子量が何千何万もあるのが高分子だ,とのイメージを持つ方が多いでしょう。
しかし,例えば以下に示すマイトトキシン (Maitotoxin) という毒素は天然で合成される最も分子量が大きい分子であり,分子量は3422です。(1)比較に,よく目にする低分子としてベンゼンを挙げますが,分子量はたったの78です。これと比べるとマイトトキシンが以下に巨大な分子かが分かります。しかし,マイトトキシンは高分子でしょうか?
高分子を学ぶにあたり,そもそも「高分子とは何か?」ということを確認しましょう。
IUPACによる定義
ではまず,国際的な化学機関であるIUPAC(国際純正・応用化学連合)による高分子の定義を参照してみましょう。IUPACの日本語名ってこんな仰々しいんですね。
相対分子質量の大きい分子で、相対分子質量の小さい分子から実質的または概念的に得られる単位*の多数回の繰返しで構成された構造をもつものをいう。(2)
はっきり言って何を言ってるかよく分かりません。
ある程度正確性が削がれるでしょうが,簡単に言いなおしてみましょう。
- 分子量が大きい
- 小さい分子から得られる
- 繰り返し単位を持つ
以上の3つを満たす物質が高分子である,ということが書かれているわけです。
先ほどの例に立ち戻ると,ポリエチレンのnが十分に大きい場合,分子量は大きく,エチレンという小さい分子から得られ,また()で括ることのできる繰り返し単位を有しています。
一方,マイトトキシンについて考えてみましょう。分子量は大きく,また小さいパーツから合成されます。しかし,()で括ることのできる繰り返し単位は見当たりません。すなわち,上の定義での「高分子」にマイトトキシンは該当しません。マイトトキシンは分類上は低分子ですが,非常に分子量が大きいため「巨大分子」と言われることがあります。
高分子と低分子の違いは?
高分子の定義が分かった所で,では低分子と一体何が違うのかという疑問が出てくると思います。一つ大きな相違点として,「分子量や構造が一意に定まらない」点が挙げられます。例えば,ポリエチレンという名前の化学物質なのに中身を見てみると色々な形態の物が混ざっているわけです。
分かりやすい原因としては,毎回同じ長さの高分子ができるわけではないということです。何個のエチレンを連結して一つのポリエチレン鎖を合成するかを完全に制御するのは不可能であり,()nのnが異なると分子量がそれぞれの鎖で変わってしまうのです。(この連結のことを重合と言います。)
また,後に詳しく説明するラジカル重合という一般的な重合の仕方では,望んでもいない分岐が勝手に発生してしまいます。一本鎖を狙って合成したはずが,木の枝のような構造になってしまうのです。
これらによってポリエチレン鎖は分子量が一定ではない枝分かれ鎖となってしまい,それぞれの鎖が別物であるという状況が発生します。すると「これがポリエチレンだ!」と代表する分子量を提示するのが困難になります。高分子の分子量は平均化されたものであり,これを数平均分子量や重量平均分子量などと言い,後に詳しく説明します。
今回のまとめ
これまでの内容で,高分子がおおよそどのようなもので,構造にどんな特徴があるのかをある程度知ることができたと思います。次からは実際の重合の方法や,高分子の性質について詳しく見ていきます。
参考
(1)「マイトトキシンの完全構造決定」有機合成化学協会誌 第55巻 第6号(1997)
(2) 国際純正応用化学連合(IUPAC)高分子命名法委員会による高分子科学の基本的術語の用語集(日本語訳) https://main.spsj.or.jp/c19/iupac/Recommendations/glossary36.html